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第四の生き甲斐を探します278 独VHS映画供養 [手記さまざま6]

トランスクリプトを終える直前から、私は次の作業も並行して行っていた。それは昔ドイツ人からもらった映画を「供養」する作業だ。

昔、私にはVHSビデオテープを送ってくれる3人のドイツ人がいた。ドイツにいればテレビの電源を入れるだけで簡単に手に入る無尽蔵のドイツ語放送が、日本にいたらまったく手に入らない。それでドイツ人に頼んでテレビ番組を録画してもらった。

3人のうち一人は、残念ながら私との相性がよくなかった。私が何か送った後一ヶ月も音信不通になり、これは駄目だと思っていたら忘れた頃にメールが来て、忙しくて連絡できなかったと書いてあった。相手からは大量のVHSビデオテープが送られてきたが、他の2人が送ってくるものと違い、私が興味をもつ録画がほとんどなかった。つまり、お互いに何かがすれ違っていた。

彼女が送ってくれた大量のVHSビデオテープは早々と処分したが、処分する前に中身の録画を「長時間録画の低画質で」4枚のDVD-Rに保存しておいた。保存はしたが、見る気はしなかった。でも今、私は退職して語学学習をやめようとしている。最後のけじめに、これらの録画のために何かをしてやりたい。ネット上にsrtが見つかった録画はsrtを付けてから語学学習を終わりにしようと考えた。

彼女が送ってくれた録画は、以下のとおり(順不同)だ。昔の名作、DDR時代のカルト作品、送ってくれた当時の新作と、多岐にわたっている:

Die Legende von Paul und Paula (1973 DDR)
Nichts als die Wahrheit (1999)
Der Schuh des Manitu (2001)
Die Feuerzangenbowle (1944)
Ete und Ali (1985)
Das indische Tuch (1963)
Harte Jungs (2000)
Pappa ante portas (1991)
Schule (2000)
Knockin' on Heaven's Door (1997)
Sieben Sommersprossen (1978 DDR)
Comedian Harmonists (1997)
Die Abenteuer des Werner Holt (1964/1965)

Die Legende von Paul und Paulaは、公開当時熱狂的に受け入れられたらしいが、当時のDDR国民はそういう心情だったのだろうか。今の日本人、とくに若い人には異質に感じられるかもしれない。強い信念をもち、威力的な行動による獲得を肯定する世界。具体的には、逃げて引きこもってしまった女の住居の前で、男がシャイニングよろしく斧で玄関のドアを叩き壊して侵入する。その後、女は医者から今度出産したら母体がもたないと宣告されるが、女はみずから産む意思を示し、そして死ぬ。何か、その、度を越えて激しいものを私は感じる。とはいえ、こんな精神状態でいられたら死ぬのも怖くないだろうなあと、うらやましくもある。

Der Schuh des Manituは、当時別のドイツ人が贈ってくれたVHSビデオテープにトレーラーが入っていた気がする。コメディー作品だが、下品なネタが多い。ネット上に「マニトの靴」という直訳調の邦題があったので、私はてっきり日本ではその名前で知られていると思い込んだ。その名前で検索したが、日本でのDVD発売は見つからなかった。ところがひょんなことから、日本でのDVDタイトルが「荒野のマニト」だと知った。レンタルビデオ店にあった。DVDの日本語吹替が原語に忠実でなく日本人好みに変えてあるので、字幕のほうで鑑賞しようとしたら、字幕も原語に忠実でなく改変した所がある。吹替と字幕とドイツ語srtがどう違うか、その一例を出す:
(吹替)チーズフォンデュだよー
(字幕)デブとガリガリどっちが好き?
(srt)Wie kommen eigentlich die Loecher in den Kaese?(どうやったらチーズに穴があくんだ)
この映画にはドイツ人をターゲットに絞ったネタがある。ドイツ人にはウケて、外国人にはそれほどの効果がない。ドイツでプレゼントとしてお馴染みのハート型レープクーヘンは、多くの外国人にはピンとこないだろう。悪人がどつぼにはまった時の
Gott sei Dank! Nun ist's vorbei
mit der Uebeltaeterei!
はMax und Moritzという絵本からの引用だ。ドイツ人なら誰でも知っていて場面にぴったりのイメージだろうが、外国人は何も感じまい。ドイツの西部劇小説とその映画化作品が元ネタとして存在することに至っては、私にはお手上げだ。肝心の元ネタに馴染みがなくてはパロディーが楽しめない。酋長がGrabt das Kriegsbeil aus!(戦斧を掘り出せ!;ドイツ版動画のドイツ語字幕)と叫ぶのは、それが元ネタらしい。で、折り畳みイスしかないと聞いて、折り畳みイスを掘り出せ!というのがパロディーか。

Die Feuerzangenbowleは古い映画だ。私としては映画自体よりも、Feuerzangenbowleというものを知ることができたのが収穫だった。できればドイツで一度Feuerzangenbowleを体験したかったが、それは叶わなかった。

Harte Jungsは、青春おバカ男子のコメディーだ。私の歳(ジジイ)になると、見ているこっちが恥ずかしくなる。邦題はドイツ語原題ではなく英語名から付けられて「アンツ・イン・ザ・パンツ!」だ。

Pappa ante portasは、あのロリオの映画だ。ミスター・ビーンもそうだったが、コメディアンが主役の作品は長編映画よりも短編コントのほうが活き活きすると、私は思う。

Knockin' on Heaven's Doorは日本でも知られている。出来の良い映画だ。私は、人が死ぬとか死にそうとかの話が苦手で、残念ながら私個人の好みとは合わない。

Sieben Sommersprossenは真面目な青春映画だが、私はどうも、あるシーンで男の股間でブラブラしているソーセージが記憶に残ってしょうがない。日本では当たり前にモザイクだ。「ソーセージ映すのかよ!」というのが昔の印象だった。この映画はsrtを取得するつもりだったが、srtを探す途中で日本語字幕idx/subつきの動画を見つけた。日本語字幕があるとは思ってもみなかったので、私は驚いた。DDR時代の作品を後世に伝え外国人にも理解させるには良いことだと思う。

このようにしてsrtを付ける等の努力をすることで、まともに見てやらなかった映画たちに最後の供養をして終わろうというわけだ。