SSブログ

雑談 [非常勤講師外伝]

この時期は大学で試験がある。私は運悪く足を怪我してしまい、学校まではびっこを引きながら行ったが試験監督で長時間立ちっぱなしは勘弁していただき、監督は私を補助してくれる事務の方にお願いした。私は空いている椅子に座って後ろから学生を見ていた。試験の後、事務の方が私に言った。「不正行為をしているらしい学生がひとりいました。」そして事務の方みずからその行為を真似して見せてくれた。それによると、股の間にカンニングペーパーを挟み、こそこそ出しては見ていたらしい。「でも証拠がないから」と事務の方は言う。私は心の中で苦笑した。だって、カンニングの話を聞いてしまったら教師は立場上何かしなければならないが、この場合何もできない。事務の方ご自身が「証拠がないから」何もできないとお考えなら、いっそのことカンニングの件は事務の方の胸に仕舞っておいてくれればよかったのに。

でも、それは今回の本題ではない。それに今回の話は真面目くさったカンニング撲滅運動の話ではなく、ただの馬鹿話だ。私は後から考えた。このカンニング学生はどうやら女子学生だ。試験会場にいた男子は2人だけで、ひとりはカンニングしたとは思えないほど残念な点数、もうひとりは恐ろしく真面目な学生。昔の漫画や若者向けドラマでは女子高生がスカートをめくって太ももに書いたカンニングのメモを見るというのがあったが、今回のカンニングペーパーを股の間に挟むというのも考えたものだ。その場所は、男性教員が手を出せない聖域、いや性域だから。まさか「ちょっと君、そこに何か隠し持っているだろう」と言いつつ女子学生の股に手を突っ込むわけには行かないだろう。そういうことをすると、次年度には掲示板に「先生は一身上の都合により退職されました」とかいう掲示が出るぞ。おまわりさんも来るかもしれない。

カンニングについては教員各人がみな別々の意見をもっているに違いない。私は、カンニングについては昔からあまり教師らしい意見をもっていない。つまり、カンニングしてる人がいますと報告されるのは迷惑だと感じる人間だ。考えてもみてほしい。非常勤でも数年後には専任になれると約束されていた時代なら、もっと教師らしい考えで不正行為に向き合っただろうが、今は非常勤が専任になれないのが当たり前の時代で、それどころかいつまで非常勤職を続けられるのかが毎年気になる時代だ。コマ数が減らされた結果、年収はまるで冗談のように少額になった。こんな非常勤に、カンニングのようなあまりにも低レベルの出来事にいちいちつきあう義理がどこにある。どうせ仕事をするなら、私はカンニングする雑魚のためではなく、真面目な学生のために力を尽くしたい。
コメント(0)  トラックバック(1) 

コメント 0

コメントの受付は締め切りました

トラックバック 1