SSブログ

第四の生き甲斐を探します224 今年一年(前編) [手記さまざま6]

私の今年一年はひどかった。転居は去年で、私はそれが終われば良い方向に向かうと思っていた。ところがそれから次の局面が始まった。

次の局面とは何か。局面の違いとは何か。去年の転居は外部から強制されたもので、転居先に置き場所がなく大事な物を処分しなければならなかったのもその強制に由来する必然だった。

それにたいして今年は、去年の転居で潰れた私の心が招いたミス、それが私を苦しめた。

具体的に書かないとわかるまい。本年度の始めに教員のオンライン会合があった。私は自分の心が潰れてまともでないのがわかっていたから、会合を休みたかった。でも仕事だから頑張らねばならないと考えた。この時頑張らなければよかった。会合で、今後教科書、テスト問題等すべてを全教員で統一してゆくという話が出た。私は前からこれが間違いだと思っていた。なぜならそれは、教員の個性を摘み取り、歯車として働かせる思想だからだ。教員相互で自分の特長を伸ばしつつ他人より良い授業をしようと頑張る心を摘み取り、みな同じ歯車として無気力に授業をするきっかけとなる改悪だからだ。こうして私は今後の改悪を考えると未来が見えなくなったが、とりわけ私と相性が悪かったのは、出席関係の統一だった。

大学で出席を点数にするという風潮がずいぶん前からある。もう十年くらい前からかもしれない。私はそれが悪だと思っている。そう思ったきっかけは、十年くらい前の出来事だ。一人の学生が私の所へ来て、出席すれば何点もらえますかと質問した。私は怒りを覚えた。大学は国の最高学府だ。小学生じゃあるまいし、出席するだけで点になるという幼稚な考えは信じ難い。しかしすぐに私は気づいた。この学生が悪いのではない。出席するだけで点数を与えるとんでもない教師がいる。悪はそいつらだ。学生は何も知らない状態でそいつらの影響を受けたにすぎない。

私は、そのとんでもない教師が自分のすぐそばにいるのも知っていた。しかし言い争いをするほど私は馬鹿ではなかった。他人は他人だ。私は私として授業をすればいい。ずっとそれで通してきた。

ところが今年、教員の会合で、出席もいずれ統一するので出席を点数にしているかどうかを全員教えてほしいと専任が言った。自分の周りにとんでもない教師ばかりがいるのを知っていた私は一気に窮地に立たされた。なんで放っておいてくれないんだ。私は争いを起こさないように長年そっとやってきたというのに。

ただ、一番の馬鹿は私だった。前述のように私は心が潰れ、まともな思考ができなかった。そんな自分を何とかしなきゃという頑張りだけで動いていた。それで私は、よせばいいのに次年度以降の参考にしようとして専任に、出席でどんな風に点をあげればいいのか教えてくださいと質問した。そうしたら専任から、では出席しようとしない学生はどうするんですかと質問に質問で返された。私の心が正常なら「質問に質問で返すのはやめてください」と言っただろう。しかし私は心が潰れて他人の言いなりになるしかできない状態だった。その時の私が心のままに振る舞ったなら、怒鳴りつけていただろう。私の周りにいるのは、こともあろうに学生を出席させるために点数で釣るという、最低な教師連中だったのだ。私は心を抑え、その場を取り繕ったが、自分の居場所が無いことが確定した。

この時点で私は退職を考え始めたが、私には最後の砦があった。私にとって学校法人は所詮雇用主にすぎない。以前の職場で学校に感謝しどうしたら役に立てるかと毎日努力した末にリストラされて以来、私は職場のために身を粉にすることの愚かさを知っている。私は学校のためでなく、教え子のために授業をしている。

学校がどんなに愚かな時代でも、教え子は常に私を元気づけてくれた。私は普段以上に教え子に心血を注いだ。ある小テストの平均点が低かったので、私は問題のレベルが高すぎたと後悔し、次は改善しようと思った。次の小テストは、今までの小テストを受けられなかった人のための追加テストだった。テストは出来上がっていたが、私は愛する教え子たちのために夜中に起きて二時間かけてテストのヒントを作成した。次の授業の後で一人の学生が私の所へ来て、「なんで授業をサボっている人を優遇するんですか」と何度も言った。私が追加テストにヒントを付けたのが気に入らなかったらしい。病欠の人が不利にならないようにと私が頑張って作った追加テストが、その学生には小テストをサボった人が後から受ける追加テストと感じられたらしい。私は学生からこんなひどいことを言われたのは初めてだった。私の心の最後の砦が崩壊し、私の退職は確定した。

そのことを親に話すと、それなら仕事を辞めるために、私の病気の介護を口実にしなさいと言ってくれた。心の潰れた私には、教師や学生に反論するような気力はない。介護を口実にしてそっと退職するのが正しいと思った。

(記事の前編おわり)