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非常勤講師外伝(18) 最近思うこと [非常勤講師外伝]

周知の通り、教員免許状は生涯有効ではなくなった。すでに免許を取得済みの教員の場合、10年ごとに教員が講習を受け、資格を更新しなければ教員免許は効力を失うことになる。免許の更新日は、各人の生年月日により決まる。文部科学省のHPでそのことが書かれている部分は、今のところここだ。もちろん将来的に変更になる可能性はある。

これについての反応は教員各人でまちまちだろう。早くも講習を受けようとしたが定員オーバーで受けられなかった人もいれば、そもそもなんでこんなことをするのかと憤っている人もいるだろう。さて、私が考えているのは、私が免許を更新する時まで私が職を失わずに教員でいられたらいいなあ、そうでありたいなあ、ということだ。万一クビになっていたら、教員免許は不要なのだから。そして学校は私の失敗を責めてクビにするのでなく、私がどうであるかに関係なく学校の事情でクビにするということも、今までの人生でよくわかった。更新の年が近づいて、その時まだ職を失わずにいたら、その時に初めて更新について考えるべきだ。残念ながらそれほどに、先のわからない世の中になってしまった。

文部科学省は教員免許状の更新についてしか関知しないから、教員がいつまで職を失わずにいられるかなど知ったことではないだろうし、知識人がこの件で発言する時にも主題を絞り込むから、その発言内容は教員免許の更新がどうかであって、個人がいつまで教員でいられるかなど話に出るはずがない。私にはそういう周囲の様子がそもそも絵空事に思える。教員の質を保ちたいなら、講習を受けさせるよりもまず、教師が教育に専念できる環境を作るように動き始めてくれ。

私個人は、なるほど講習には意義があると思うが、それが有効なのは「教員」という複雑な人間存在のただ一局面にすぎないと思う。その他のかなり多くの局面を形成しうるのは、教え子そのものだと思っている。今回のテーマには場違いな喩えになるが、ある漫画があった。藤田和日郎という漫画家が描いた「うしおととら」というものだ。その中に確か、「俗に『人一人斬れば初段の腕』という。」というような一行があった。私はこれが忘れられない。人斬りといっても物騒な話ではない。槍の扱い方の話だ。書物で学ぶのも、道場で稽古するのも、大事なことだ。しかし一度実戦を経験すると、書物や稽古を飛び越えて何か別のものを得られる。教職も同じだと思う。教え子に好かれ、嫌われ、良いことをし、悪いことをし、もちろん出来る限り嫌われたくはないし、悪いことはしたくないのだが、人生には色々あり、それが教員を育てる。これは講習では得られない。

話は変わるが、最近同業者から色々な話を聞いた。私自身が無知なので、この件については明確に表現することも正しい用語を使うこともできないことをお許しいただきたい。お上が個々の学校の事情をチェックしているのは前から知っていた。でも細かいことは知らない。第三者評価という段階まで来ているらしい。私や私の同業者は大学の非常勤なので、話は高校でなく大学のことになる。昔は大学といえばアカデミックな場所で、その評価もアカデミックな研究業績に目が向けられていたものだが、これが日本の大学の事情に合わないことは文部科学省も察しているようだ。最近は教育機関としての教育内容が評価されるようになってきたらしい。大学生が4年間で学べる限度が、アカデミックなレベルとしてそれほど高くないという現実の認識も関係しているようだ。研究業績は門外漢にとってチンプンカンプンで、第三者による評価は結局質より量になるという周知の問題点があるが、それと似て、教育内容の質も果たしてどう評価して良いのかは難しい。たぶん明確なガイドラインなどないだろう。でもお上から睨まれると学校運営が危ういから、みんな一生懸命自分なりに「こんなことやってます」とアピールする。教育学や教授法を専門にしている先生は、今こそ我が出番というわけで学校に進言することもあるだろう。それはもっともなことだが、他の教員には厄介事が増えるだろう。学問としての教授法は、えてして現場の個々の諸問題にはお構いなしで、大上段に振りかぶった大枠に個別のケースを嵌めたがるからだ。それでなくても人間は十人十色、教師も教え子も個性いっぱいなのに。とはいえ、私はこれらの件についてまったく批判を持たない。今は静観している。それに、動きとしては悪くないと思う。大人数を巻き込んだ動きになかなか実が伴わないのは、世の中の常なのだから。少し様子を見ようではないか。
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by blueclouds (2008-10-02 06:31) 

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