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個人的仏教探索 (10) [個人的仏教探索]

今回は無上瑜伽タントラの諸尊を列挙する。列挙といってもこれで全てではない。前回も書いたように、まずは自分の足元から少しずつ断片的な知識を積み上げてゆく。以下の諸尊の中には、無上瑜伽タントラを代表する諸尊もあれば、それほど重要でない諸尊もある。




ヤンタク・トゥク(意密金剛薩埵)

ニンマ派が崇める尊格のひとつ。ヤブユム。忿怒尊で、姿はヤマーリに似る。敵対者を強力に調伏する。


プルパ・ティンレー(羯摩楔)

ニンマ派が崇める尊格のひとつ。ヤブユム。忿怒尊で、姿はヤンタク・トゥクに似るが、楔を持ち翼がある。ニンマ派の忿怒尊は翼をもつものが多い。




マハーチャクラヴァジュラパーニ(大輪金剛手)

父タントラの「青衣金剛手タントラ」の主尊。ヤブユム。忿怒尊で、数ある金剛手の中でも最もおどろおどろしい雰囲気を漂わせる。熾烈な霊力をもつ。


青黒ヤマーリ

ヤマーリとは「ヒンドゥー経の冥界主であるヤマの敵」を意味する。父タントラ。ヤブユム。忿怒尊で、ヤマを踏みつけている。文殊菩薩の化身。調伏の修法において、青黒ヤマーリが要求する人の肉、象の肉、馬の肉、牛の肉、犬の肉、大便、小便、精液、経血、髄液を供えて七日七晩祈ると、青黒ヤマーリは祈る者の敵を殺す。


赤ヤマーリ

父タントラ。ヤブユム。忿怒尊だが、他の忿怒尊のように多面でも多臂でもない。文殊菩薩の化身。敬愛法において、祈る者に異性を引きつける。


ヤマーンタカ

父タントラ。ヴァジュラバイラヴァともいう。水牛の顔と青黒い身体をもち、カルトリ刀、頭蓋骨杯、梵天の首、串刺しの人間をもつ。淫欲相(ペニスを怒張させる姿)。ヤブユムではない。文殊菩薩の化身。度脱法において、祈る者が対象とする悪人を殺し、文殊菩薩の浄土へ送る。ゲルク派はグヒヤサマージャ、チャクラサンヴァラにヤマーンタカを加えて「サンデジク・スム(3つの密教)」と称し自派の密教を構築した。


グヒヤサマージャ(秘密集会)
秘密集会(ひみつしゅえ)とは秘密の集会を開くことではなく、「秘密の集まり」という意味。父タントラの「グヒヤサマージャ・タントラ」の主尊。グヒヤサマージャ・タントラはもっとも古いタントラで、あらゆるタントラの祖といわれる。とくにゲルク派がこれを讃える。ヤブユム。グヒヤサマージャは秘密仏としては例外的にさほど厳しい忿怒相とならず、むしろ寂静相に住する。おもにジュニャーナパーダ流の文殊金剛(サフラン色)と聖者流の阿閦金剛(青)がある。ゲルク派のイダム。




ブータダーマラ
ブータダーマラとは「魑魅魍魎の支配者」という意味。「ブータダーマラ・タントラ」の主尊。ヤブユムではない。忿怒相で青黒。悪鬼を調伏する。


クルックラー
花の矢をつがえる赤い女神。ヤブユムではない。敬愛法において、祈る者に異性を引きつける。


ブッダカパーラ
母タントラの「ブッダカパーラ・タントラ」の主尊。ヤブユム。忿怒相で青黒。踊る姿。ブッダカパーラ・タントラは、グヒヤサマージャ・タントラを除けばもっとも古いタントラのひとつ。


マハーマーヤー(大幻化)
母タントラの「マハーマーヤー・タントラ」の主尊。ヤブユム。忿怒相で青黒。人間の生皮を背にまとい、人間の生首と髑髏で作られた輪を頚にかける。虎皮のパンツをはく。カギュー派が信奉する。


ヘーヴァジュラ(喜金剛)
母タントラの「ヘーヴァジュラ・タントラ」の主尊。ヤブユム。忿怒相で青黒。人間の生首と髑髏で作られた輪を頚にかける。虎皮のパンツをはく。四魔を踏みつける。一面二臂、一面四臂、三面六臂、八面十六臂の5形態があり、面や臂の数が少ない形態は初心者の観想用。金剛薩埵の特殊な化身。ヘーヴァジュラ・タントラは最もエロティックな比喩や隠喩に富む。サキャ派は独自の見解からこれを双入不二タントラとみなす。カパーラ・ヘーヴァジュラはサキャ派のイダム。


チャクラサンヴァラ
母タントラの代表である「サンヴァラ・タントラ」の主尊。ヤブユム。象の生皮をまとい、人間の生首と髑髏で作られた輪を頚にかける。虎皮のパンツをはく。シヴァ神とその妃を踏みつける。「サンヴァラ・タントラ」はサンヴァラ系タントラの総称。あらゆるタントラの中で最も人気を博した。ニンマ派以外の各宗派で盛んに行じられた。サキャ派ではヘーヴァジュラに次ぐ地位。「ヘーヴァジュラ・タントラ」の後に成立し、「ヘーヴァジュラ・タントラ」と同様に性的な比喩隠喩や異様な儀礼があるがいくぶん穏当。




ヴァジュラダーカ(金剛空行)

壮大で複雑な構造を有するダーカアルナヴァチャクラ・マンダラの主尊。ヤブユム。このマンダラはその内部に父タントラ系の諸尊と母タントラ系の諸尊をほとんどすべて網羅し、それまでのタントラの教えを統合する事を目的に創造されたと思われる。インド密教における最後にして最大のマンダラであるカーラチャクラのマンダラへの橋渡しとなったのではないか。とくにサキャ派がこのマンダラを重視した形跡がある。


カーラチャクラ
双入不二タントラである「カーラチャクラ・タントラ」の主尊。ヤブユム。五色。「カーラチャクラ」は時間の輪または時間の循環を意味する。カーラチャクラ・タントラはインド仏教最後の経典であり、それまでに仏教が獲得しえたあらゆる知識を網羅するがゆえに主尊の図像的特徴やマンダラ(身口意具足時輪マンダラ)は複雑を極める。性的ヨーガの実践を必須とはせず、観想のみによっても解脱できると説く。




さて、この「調査メモ」を記し始めた頃は、「このような、おもに図像的な知識だけでは役に立たないか」と思っていた。しかし、そうでもない。ネット上のオフィシャルなサイトで「聖地チベット -ポタラ宮と天空の至宝-」の出品目録を見つけた。もしも前もって「調査メモ」を作っておかなかったら、私は目録を見ても何が何やらわからなかっただろう。でも実際には「調査メモ」のおかげで、この出品が父タントラ、母タントラ、双入不二タントラの代表的な尊格を含み、どれほど貴重かを感じることができた。

試しに私が個人的に気になる展示物を抜き出してみたが、これは貴重だ。写真は撮らせてくれないだろうから、しっかり事前に調査して、しっかり見てきたいものだ。

015 梵文 八千頌般若波羅蜜多経
016 同上
018 カーラチャクラ・タントラ
042 チャクラサンヴァラ父母仏立像タンカ
043 カーラチャクラ父母仏立像
044 グヒヤサマージャ坐像タンカ
045 ヘーヴァジュラ父母仏立像
046 ヤマーンタカ立像
047 ヤマーンタカ父母仏立像
051 マハーカーラ立像
061 カーラチャクラ・マンダラ タンカ
075 カパーラ
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