さようなら、からだメイト

Androidスマホの話だ。スマホのメーカーが作ったアプリは、スマホに元から入っていてすぐ使えるけれども、別のメーカーのスマホに乗り換えると使えなくなる。こう書くと当たり前のことに思えるが、スマホを使い始めたばかりの何も知らない人間にとっては事情が違う。後から残念なことが起きる。何も知らない人間は、スマホの操作を学ぶので精一杯だ。スマホにプリインストールされているアプリがメーカー専用アプリだなんてまだ知らないし、他のアプリを探すことにも慣れていない。だからプリインストールされているアプリをとにかく試し、気に入ったら「ああ、始めからスマホに入っていてよかった、便利だ」と思い、使い始める。
そして２年が過ぎ、いわゆる「２年縛り」が終わり、新しいスマホに買い替える時が来る。SIMカードだけを買うことはできず、スマホを買い替えなければならない。なぜなら、これを書いている現在はSIMフリーのスマホが広く宣伝されていて、同じスマホを使い続けられる人も多いが、今から２年前はまだ事情が違った。当時はショップに行って相談しても、スマホは２年後に買い替えるという話ばかりが出て、SIMカードだけ交換するという選択肢が話に上らなかった。
より安い月額料金、より安い機種代金を基本条件とし、ネット上のレビューと口コミから安くても不人気の機種は除外し、次のスマホを決める。そうすると、今までのスマホとは別のメーカーの商品になることも多い。今までのスマホから新しいスマホへアプリの設定を移す。この時になって、特定のアプリが新しいスマホにインストールできないことが判明する。Playストアには、そのアプリが今のスマホのバージョンに対応していないと表示されるので、最初はバージョンの問題かと思う。しかしそうではない。ネットで調べるうちに、そのアプリが今までのスマホのメーカー専用アプリだと判明する。別メーカーのスマホへのインストールを拒む。
他のアプリで代用できれば問題ない。しかし代用できない場合もある。歩数計。他のアプリでは、今までの歩数を引き継げない。それだけではない。そのアプリが気に入ったという場合もある。シャープのアプリ「からだメイト」は、シンプルな歩数計だ。基本操作方法（表示が歩数と体重の切り替えになっていること、歩数表示は日単位と月単位の切り替えになっていること）だけを理解すれば、後は何も迷う所がないし、見やすい。歩数計測が厳密すぎず、適度にアバウトな所のその微妙な調整具合もいい。室内で歩いてもそれなりにカウントされるのが、腰痛で歩数が稼げない私には有難い。あまり厳密に移動距離まで検出し外出時の歩数のみ計測されると、私の場合は歩数が伸びずにやる気を失ってしまう。室内で歩いてもちょっと加算され、実際の運動量よりもちょっと多めの歩数になるという絶妙なアバウトさ、やる気を誘う少しだけ多めの計測結果がいい。そして私の一押しが、歩数の下の「目標未設定」という部分にたまに表示される「開始から〇〇km達成！」だ。この「達成！」には、その後にカッコ書きが続く。それがイイ。最初は確か「東京～何処何処」で、東京を起点に東海道を西へ行った。「東京～京都」になり、「東京～大阪」になり、さらに先へ行くかと思ったら、ある時点で「東京～札幌」と、突然北へ行った。それで私はようやく、一本道を先へ行く気はないのだと気づいた。達成kmにおおよそ一致する距離なら、表示はどこからどこまででも良いんだ。出発点がいつでも東京になるのか、それとも使用者の現在位置によって違いが出るのかを私は知らない。とにかく最後は「東京～宮古島」だったか、たしか沖縄の離島まで行った。腰痛で実際の旅行ができなくなった私にとっては、この達成感がとても楽しみだった。次の表示はいつ出るだろうと思うと、外を歩いてきたいという気になった。ところが、新しいスマホになって「からだメイト」が使えなくなった。
もちろん私はPlayストアに登録されている様々な歩数計の説明を読み、その中からインストールして試したものもある。でも好きになれなかった。上記私の一押しに相当する機能を備えた歩数計はわずかだ。私はそれ以外の歩数計も調べたが、たいていの歩数計の説明は、その歩数計がどれだけ本格的かを主張していた。移動距離を検出して室内での歩数をカウントしないようにしているとか、カロリー計算もしっかりするとか。私が望んでいる適度なアバウトさや楽しさには出会えなかった。私はとある歩数計アプリをインストールして試した。自室でインストールし、ちょっとコーヒーを淹れに台所へ行って戻って来たら130歩もカウントされていた。アバウトといっても程度があるだろうに。私は呆れてすぐにアンインストールした。つまり、それだけ「からだメイト」は厳密すぎずアバウトすぎず、うまく調整された歩数計だということだ。でも新しいスマホにはどうしてもインストールできない。
私は、「からだメイト」にお別れしなければならないと認識していた。でも、私の一押し機能の表示が「目標未設定」のままで終わるのが嫌だった。「東京～宮古島」の次はどこだろう。当然次は外国まで行くことになる。韓国だろうか。せめて古いスマホを処分する前に、最後の記念に次の「東京～？？？」を出して、そのスクリーンショットを保存したかった。
それで私がどうしたかというと、いつもスマホを２つ持ち歩いた。ひとつは新しいスマホで、電話もかけられるしネット検索もできる。ただし歩数計は入っていない。もうひとつは古いスマホで、電話は通じないしネット検索もできなくなった。ただ歩数計が入っている。健康な人なら何でもないだろうが、腰痛の私は外出する時少しでも荷物を軽くしようと考える。とくにこれから冬になると筋肉が引き締まって腰痛を起こしやすいから、なおさら荷物を軽くしたい。それでも「からだメイト」は持ち歩きたい。ユーザーにそこまでさせるんだから、罪な人だよシャープさんは。
そして先日、出先で電車待ちの時間に古いスマホを見たら、ついに「東京～北京」が出た！　外国は、韓国でなく中国だったか。私はすかさずスクリーンショットを撮った。これで、いつでも安心して「からだメイト」にさよならできる。