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第四の生き甲斐を探します63 作品3、もう最初から滅茶苦茶だ [手記さまざま5]

昔初めてDTMに挑戦した時に作品2「梵鐘」を完成させられなかったのは、妥協を許さない孤高の精神が原因だった。梵鐘の音色が不完全だ、梵鐘を鳴らすタイミングは何か月もかけて無数に試し決めるのだ、と自分で勝手に自分の中のハードルを上げているうちに天袋整理が始まりタイムオーバーとなった。俗に天才と馬鹿は紙一重と言うが、「妥協を許さない孤高の精神」は「ポンコツ」と紙一重だった。だから今回のDTM再挑戦では、「涅槃」の音が涅槃でないのにとにかく梵鐘をボンボン鳴らして録音してしまい、とにかく完成とした。これはこれでポンコツな気もするが、永遠に未完成よりはいい。

作品2を終えた私は、気を良くして作品3に取りかかった。これも大昔にハードウェア・シンセとカセットマルチトラックレコーダーで作りかけた作品だ。でも今までの二作よりもかなり複雑で厄介だ。

作品3は、昔カセットMTRで4トラックに録音し始めた音をデジタル化したものだけが残っている。それは断片だ。

作品の構成としては早笛、シテの出、異空間乱拍子、掛合、キリとなり、それらのうちオーケストラが担当する早笛とキリは昔すでに出来上がっていた。ところが、キリはシンセ音色バンクとデジタルシーケンサーの中に入れたまま天袋に長年仕舞い込み、長い年月の後に続きをやろうとしたらシーケンサーのフロッピーディスクドライブが壊れていた。これでは音色データとノートを読み込めない。もはやシンセ音色バンクともども処分するしかなかった。だからキリは私の頭の中にしか残っていない。痛恨の痛手だ。

どうしてカセットMTRに録音しておかなかったかというと、シーケンサーに入れておけば細部の改良が後からできるからだ。もっと改良して、最後のマスターミキシング時にテープに入れればいいと思っていた。

とにかく、現存する録音がどんなものか、聞いてみることにした。4トラックあるから普通の音楽プレーヤーで聞けず、Reaperを使うことにした。

MTR用カセットテープには、最初に別の作曲が入っていた。昔最初にDTMに挑戦した時に作った作品1「Rubicon-Orign」ではない。それよりもさらに昔、パソコンによるDTMではなくカセットMTRで作った習作だ。PhaedraとRubyconを足して2で割ったような曲だ。でもそれは今回必要ないので、その後に入っている「作品3」の部分だけをSoundEngine Freeで切り出した。本当はReaperに読み込んで4トラック一度に切り出したかったが、Reaperの操作法をまだ知らない私には方法がわからなかった。残念だがReaperの操作法を学ぶまでは、各トラックwavの一部を無音にするなどの作業をSoundEngine Freeに頼るしかない。

Reaperに4つのトラックを作り、不要部分をカットした4つのwavをそれぞれトラックへドラッグ&ドロップした。再生してみると、Track1とTrack2に早笛、Track1にはその後掛合の地謡が入っていた。昔の私はMTRでTr.1を右、Tr.2を左に振り分けるつもりだったに違いない。Track3はシーケンサーにテンポを送るための制御信号(ピリピリ音)だけが入っていた。Track4にはシテの謡が入っていた。これで全部だ。

試しに聞いた瞬間、私は早笛のチープさにもシテ謡のエフェクトブリブリ感にも落胆した。今日が「作品3再挑戦」の初日だというのに、もう最初から滅茶苦茶だ。さっき「オーケストラが担当する早笛」と書いたが、早笛は最初からオーケストラではなかった。はるか昔カセットMTRを使っていた頃のことだが、最初私はシンセで能管をシミュレートしたかった。ところが音色を作る以前の問題が生じた。デジタルシーケンサーへの打ち込みは西洋音階でするしかない。私は囃子のテープを聞きながら、できるだけ似た音階を打ち込んだ。それなのに、いざシンセに演奏させてみたらメロディーが洋楽になってしまった! 能管の演奏とはあまりにも違いすぎた。それで私は真面目なシミュレートを、どうしても諦めるしかなく、こうなったらもう洋楽オーケストラとのコラボをやらせるしかないということになった。音色選びは、当時持っていたシンセ音色バンクを片っ端から試して、まがりなりにも聴けそうな音色を選んだが、結果は能とは程遠かった。横笛であるはずのノートは癖のある管楽器かオルガンのような音色に変貌し、あろうことか太鼓がストリングスみたいになってしまった。それだけではどうにもつまらなかったので、苦肉の策でリズムをスネアドラムに叩かせるというカオスぶりとなった。それでも、今の私は聞いてみるまで、聞きごたえのある出来だったはずと思い込んでいた。でも聞いたらチープだった。私は「うーん」と、うなった。

そしてシテ謡。カセットMTRに録音した時は、手元にある機材がすべてだった。他に可能性はないと思った。将来DTMの時代が来て、いくらでもFXをかけられると知っていたら、生の声を保存していただろうに。でもそんな未来は知る由もなかったから、手持ちのリバーブユニットで一番それらしいと思う変調をかけた。つまり地声でなく、ボワンと曖昧にした。エフェクトブリブリだ。一度ボワンとなってしまった音は、もう戻らない。

駄目押しで地謡。地謡が地拍子謡をしている。これを録音した時は、手元に能か舞囃子のカセットテープがあった。そして謡だけでなく大鼓小鼓もデジタルシーケンサーに打ち込むのが当初の予定だった。しかし今は能の音声がない。大鼓や小鼓はもはや耳コピで再現して打ち込めない。上記のとおり、その後のとんでもない改変によりオーケストラとのコラボになった。それなのに地謡だけ意味もなく地拍子謡をしている。困った。とにかく、「作品3再挑戦」の初日だというのに、もう最初から滅茶苦茶なんだ。

今日は「作品3」をいじる初日だから、初めの一歩のつもりで、ReaperとFXを学ぶことを兼ねて、シテ謡と地謡にFXをかけてみることにした:

Track4(シテ)
VST-ReaPitchを追加
Shift (octaves): -1
Formant shift: -4
Algorithm: elastique 3.3.3 Pro
Parameter: フォルマント維持(中低音域)


Track1(地謡)
VST-MDE-Xを追加
096:Stereo Doubling

改めて思ったが、思い通りの音色やエフェクトなんて存在しない。手元にある機器やアプリで実現可能な効果がなんと限られることか。そう、これからも多くの妥協をしないと音や曲は作れない。「オーケストラとのコラボになっちゃった」みたいな妥協をどんどんして、変容してゆくしかない。