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最後のカセットテープ補完計画 (003) [  カセットテープ(補完計画)]

カセットテープ補完計画は、少しずつだが進んでいた。子連れ狼は再放送を録画済みなのでこれ以上の補完は必要ない。画質に不安が残る録画だが、ここで完璧を求めてはいけない。世の中に完璧はないのだ。どこかで折り合いをつけねばならないのが人生だ。

カセットテープのその後の部分には、クラシック曲またはそのジャズアレンジ版が入っている。
サン=サーンス 動物の謝肉祭~白鳥
同上            ~終曲
バッハ ゴルトベルク変奏曲
マルチェッロ オーボエ協奏曲 第2楽章 映画「ベニスの愛」のタイトルバック
ヴィヴァルディ フルート協奏曲ヘ長調「海の嵐」第1楽章 ジャズアレンジ
バッハ ハープシコード協奏曲ニ長調 第3楽章
子供の頃の私はクラシックをよく聞いた。でも年をとるにつれ、そんな高尚な趣味は失せ、ミーハー・アイドル路線へと向かったのだった。このカセットテープ補完計画では、クラシック曲は原則として補完していない。唯一、ヴィヴァルディのジャズアレンジ版の情報があれば欲しいと思ったが、それは見つからなかった。「四季」のジャズアレンジならばあるんだが。

それから月日が経ち、朝のラジオで昔聞いたような曲がかかった。オフコースだという。私のカセットテープにオフコースが現れるのはずっと後の巻だが、これも何かの縁なのでネット検索してみた。いわゆる「歌ってみた」はあるのだが、オフコースの歌自体はなかなか見つからない。世の中に権利というものがあるのだから、これが健全な状態なのだ。

もともと私のカセットテープ補完計画とは、ほんらい映像付きの作品が音声だけ録音してある場合に映像を入手するのが第一の目的、そしてカセットテープの音声に大きな問題がある場合にそれよりもましな状態の音を探し求めるのが第二の目的だ。オフコースの場合は、ネット上に補完になるものが存在しなくても私は困らない。

この時点で、私は補完計画のやり方をずいぶん変更してしまっていた。当初はカセットテープの通し番号順に補完してゆくつもりだったが、唐突に通し番号1からオフコース(通し番号80くらい)まで飛んでしまった。そうなると、気持ちのほうも変わってくる。順番に補完でなくていいなら、いま私が本当に補完したいのは何か。昨晩私は布団の中でそれを考えた。そして思った。それは矢代秋雄。

私は音楽をまるでわかっていないので、矢代秋雄の弦楽四重奏曲や交響曲やチェロ協奏曲やピアノ協奏曲は、聞いた感じが暗くて、今では人々が見向かなくなった数十年前の音楽にすぎないと思っていた。それではなんでそんなものを補完したいかというと、これまた音楽をまるでわかっていない人間の心理で、私にとって矢代秋雄の曲はたしかにショパンほど美しくないのはもちろんストラビンスキーほど美しくもないが、その暗くてどことなく日本人的な作風の作品を一途に粛々と脇目もふらずに完成させる姿が、何かこう、すごい。そう、暗いけど、何かすごいものを感じる。

で、ネット検索の最初にウィキペディアで調べてみたところ、矢代秋雄の曲は私が考えていたほど忘れられてはいないらしかった。 

それと、私にとって残念なのはカセットテープにピアノ協奏曲が入りきらなかったことだ。テープがA面の終わりまで来た。どうする。当時のラジカセにはまだリバース機能は付いていなかった。手動でストップボタンを押し、イジェクトボタンを押し、カセットを取り出してひっくり返し、フタを閉めて録音ボタンを押さなければならない。とはいえ、私は自分のラジカセでそういう作業を繰り返してきた子供だったから、作業そのものは問題なかった。それでも作業の間に数小節ぶんの演奏が録音されなかった。これはもちろん今回の補完計画の対象だ。

そして私はネット検索しはじめた。

まずは弦楽四重奏曲だが、ネット上にあまり見つからなかった。残念だ。交響曲より前だから知名度が違うのか。私はこの弦楽四重奏曲も好きなのに。とにかくひとつネット上に見つけた。
https://www.youtube.com/watch?v=F0eodor3fwo

交響曲は、私のカセットテープにあるのと同じものを見つけることができた。同じとはいっても、質は違う。私のカセットテープはノーマルテープだし録音したのがラジカセなので高音が出ない。ネット上のもののほうが高音が出ている。それにステレオだ。この人はステレオのFM放送をカセットデッキで録音したらしい。貴重だ。
https://www.youtube.com/watch?v=qlloy-54Oh4
尾高忠明指揮 東京フィルハーモニー交響楽団

その他にもネット上に交響曲があった。当たり前だけど、指揮者が違うと演奏が違う。私は自分のカセットテープだけ聞いてこの年まで生きてきたから、いま別の演奏を聞いてようやくこの曲の「別の表現方法」に接して新鮮な気持ちだ。
https://www.youtube.com/watch?v=5Ccuh6Eymzc
湯浅卓雄指揮 アルスター管弦楽団

チェロ協奏曲。あまりネット上に見つからない。
https://www.youtube.com/watch?v=8d8MA-IJ8lg
岩崎洸(Vc) 若杉弘指揮 読売日本交響楽団
これは私のカセットテープと同じ出演者だった。

ピアノ協奏曲。私はピアノ協奏曲を2回もカセットテープに録音したが、どちらも一部切れてしまっている。そしてどちらの演奏もネット上にはなかった。
https://www.youtube.com/watch?v=vhVY0Bx3Xvs
中村紘子(Pf) 外山雄三指揮 NHK交響楽団

https://www.youtube.com/watch?v=RiVdWi-ffug
岡田博美(Pf) 湯浅卓雄指揮 アルスター管弦楽団


今回の記事で「聴く」と書かずに「聞く」と書いたのは、私自身が音楽への造詣も何もないのがわかっているから、本当に矢代秋雄の作を理解して惚れ込んでいる人にこの記事で不快感を与えないように、私はただ「聞いた」程度の人間ですというつもりでそうした。